第一話
無数の本棚が並ぶ部屋
部屋の真ん中に丸いテーブルが置かれており、そこに痩せ細った女とティティとムーリアの三人が腰掛けている
ムーリアが本を開き、何やら読み聞かせている
ティティ「私、このお話大好きなんだ。なんだか優しくて」
幽霊「...素敵なお話でした」(泣いている)
ムーリア「良かった。あなたもきっと気に入ってくれると思ったの」
幽霊「......私、実は、数ヶ月前に病で死んだんです。でも、まだ何かやり残したことがある気がして、ずっと彷徨っていて...ここに来た時、お二人が普通に話しかけてくださって驚きました」
ムーリア「ここでは生者も、死者も、精霊も、小鳥も、皆平等なの」
幽霊「人とお話するのなんて本当に久しぶりで...。それに、今のお話...病で臥していた間に忘れてしまったものを思い出せた気がします」
ティティ「......。」
ムーリア「何よりだわ。ねえ、あなたにだけ言(ゆ)うわけじゃないから気を悪くしないでね...あなたのようにここに迷い込む人は間々いるわ。その度に私はその人たちと話をしてきたけど...死者はあまり長く過去に留まるべきじゃないわ」
幽霊「...はい...」
ムーリア「魂は何度だって巡っているものよ。別れを惜しみ続けていたら、再会は遠のくばかり...。紅茶を淹れましょうか? その一杯の間あなたの話を聞いて、それから行く道を開くこともできるけど」
幽霊「いいえ...もう行きます。次の人生がなんだか待ち遠しくなりました」
ムーリア「ふふ、素敵なことね」
ティティ「...出口までお見送りするね。こっちですよ~」
幽霊「はい。あの...」
ティティ「なあに?」
幽霊「ありがとうございました」
ティティ「お礼を言われることなんて、何も」
幽霊「いいえ...言わせてください。また、次に死んだら...ここに来られますか?」
ティティ「どうだろう。どうかな? ムーリア」
ムーリア「そうねぇ...導きがあれば、来られるかもね。もしかしたら次に死ぬまで待たなくても良いかもしれない。ふふ、その時は...」
ティティ「ふふ」
ムーリア/ティティ「またのご来店を、お待ちしております」
ティティ「お気をつけて~」
幽霊「本当にありがとう」
ティティ「...ムーリア」
ムーリア「なあに、ティティ」
ティティ「......思い出すってどんな感じ?」
ムーリア「.....良いことばかりではないかもしれないわね。悪いことばかりでもないけど」
ティティ「...そっか...」
ムーリア「...焦ることはないわ。必要なものは必ず、必要な時に現れるんだから」
ティティ「…そうだね、まあ今のままでも楽しいしね!」
ムーリア「何よりだわ。じゃあ、彼女が無事にあちらへ行けるようにお祈りしましょう」
ティティ「うん!」
ムーリア「空よ」
ティティ「星よ」
ムーリア「大地よ」
ティティ「海よ」
ムーリア「広大な旅路を渡る魂に」
ムーリア/ティティ「祝福を」
ムーリア「さあ、お部屋に戻りましょ。昨日焼いたクッキー、食べないとだめになっちゃうわよ」
ティティ「なんてこった!」
ムーリア「ふふ、でしょ。お庭のハーブで特製のハーブティーを淹れてあげる」
ティティ「わぁい!」
ムーリア「じゃあレモングラスを摘んできてくれる?」
ティティ「わかった!」
ティティ「えーと、レモングラスレモングラス..あれ!あれぇー??.いつもこの辺に...いない!? レモングラスー?」
ムーリア「ティティ遅いわね...。またレモングラスが行方不明なのかしら...今のうちに裏に成ったマスカットを採ってこようかしらね」
ティティ「ムーリア~!レモングラスがいないよ…あれ?」
幽霊『忘れてしまったものを思い出せた気がします』
ティティ「私って…なんなんだろう…」
ムーリア「ごめんなさいティティ。レモングラスたち、また勝手にピクニックに行っていたみたいで裏口の方に......ティティ?」
ティティ「!あ!お帰り!ただいま!」
ムーリア「ただいま。おかえり。......大丈夫?」
ティティ「うーん、昨日見た夢の事を考えてたの」
ムーリア「夢?」
ティティ「ムーリアの背がどんどん伸びて、伸びて伸びて伸びて!家も破壊し町も破壊し~って感じの夢ー」
ムーリア「予知夢かもね。さ、レモングラスたちがやっと帰ってきたから、ティータイムにしましょう」
ティティ「うわぁ~、おっかなティータイムだね。フィオ〜おいで、お茶だよ!」
ムーリア「フィオのはこっち。私たちと同じの飲むと酔っ払うわよ」
ティティ「酔っ払ったフィオも見てみたいけど...」
ムーリア「この家を燃やすつもり? 木造なんだけど」
ティティ「建て直すまで野宿かぁ...」
ムーリア「寝袋なら貸してあげる」
ティティ「えっ寝袋あるの!?」
ムーリア「蔦製の硬いのがね」
ティティ「硬いのかぁ...だったらいいや...」
ムーリア「さ、冷めちゃうわよ。いただきます」
ティティ「いただきまーす」
ムーリア「このお話は 星洋堂夢店に物語の蝋燭が灯る前のお話」
ティティ「星洋堂夢店が あなたの物語を思い出すためのお店になる 少し前のお話」